痛みの治療は、私たち鍼灸師が最も得意とする分野です。
大抵の痛みはマッサージや鍼灸で緩和できますが、特に急性期の痛みは取りやすく、ぎっくり腰や寝違いなどの首の痛みや、捻挫や肉離れなどのスポーツ障害は、来院時と治療後では、動きや痛みが劇的に変わることも少なくありません。
但し、多くの場合、私たちに出来ることは、周囲の筋肉の緊張や神経の興奮を抑え、痛みの要因を取り除くことで鎮痛を促すだけで、傷や変形、炎症などを完全に治してしまうことではありません。
最終的に怪我を治すのは、患者さん自身の自己治癒力です。
痛みや炎症は、身体が損傷部位を修理するための反応過程で、その修復作用の初めの一歩が痛み。
組織が壊れると、まずは発痛物質を放出して、脳に損傷を知らせて安静を守らせ、
炎症により、発熱して感染に備え、修理屋である白血球を血管隙間を広げることで組織にしみ出させターゲットに届けます。
この時ついでに水分も血管から組織へ漏れ出てしまうので、関節などに水が溜まって腫れますが、これは薬の副作用のようなもので、本当はない方がいいんです。
氷などで患部を冷やし、腫れたところを高くして、包帯で圧迫するなど、早めに炎症を抑えるための処置をしましょう。
患部を安静にしていれば、数日で身体が損傷部位を修理して自分で治します。
一番良くないのは、痛みがあるのに使い続けること
安静にせず、痛い場所を使えば、炎症が治まらず、あるいは一度治まってもまた炎症を起こし、痛みが再発するばかりではなく、色々と怪我が長引く要因になります。
痛みがあると筋肉は反射的に縮み、それがさらに激しい痛みを起こす
特に筋肉の損傷は、動かす→痛い→筋肉が反射的に縮む→激痛→身体が緊張して常に力が入る→血行不良及び、周囲の二次的な痛みの発生*1
という悪循環を生みやすいので、大した怪我でもないのに長引いてしまう人が結構いるんです。
また、炎症が長引くと、怪我の部分が変質して、硬くなってしまいます。蚊に刺されても、掻かなければ痕も残りませんが、掻いてしまうと傷になりますよね。
繰り返し骨や筋肉を修理するために組織が増殖すると、そこが硬くガサガサになって、何もない場所に比べ、痛みを起こしやすい環境を作ってしまいます。
長引かせないために一番大事なことは無理をしないことです。
*1長期間痛みが継続しているものでも、この硬くなって運動制限を起こしている部分に置き針をしたり、マッサージで緊張をゆるめてやるだけで、その場で痛みが取れてしまうことも多く、患者さんに驚かれることもしばしばです。
他の動きには問題がないが、特定の動きをすると激痛が走る場合、
痛みのある部分の力を完全に抜いて、他動的にその動きをしてみてください。
肩の痛みなら、反対側の腕で持ち上げたり、膝の痛みであれば、体重をかけずに、座って腕で持ち上げる、お風呂の中かプールで動かすなど。
その角度に持っていっても、他動的な動きであれば痛まない場合には、その激痛は、動きのために起きているのではなく、痛みにびびって身体が反射的に筋肉をぎゅっと縮めてしまうために起きている可能性があります。
そこで自分でできる対策が
サポーターやテーピングなどの使用
サポーターやテーピングの使用は、筋肉や関節の負荷を減らすだけではなく、筋肉の過剰な反応を抑えられます。
巻く時のポイントは、痛みのある関節ではなく、関節周囲の痛みの原因である筋肉をしっかり押さえることと、その筋肉の動きをサポートしてあげることです。
膝が痛むのであれば、膝の少し上の腿の部分にぎゅっと抑えてあげるような感じで少しきつめに巻き、それでも痛い場合はふくらはぎの上部にも巻きます。
肘の痛みであれば肘のすぐ下の、一番太くなっている部分に巻いてください。
腰の場合は人により巻く位置(高さ)を変えることで効果が大きく異なります。
ウエスト辺り、骨盤や股関節部分を締める、前後に角度をつけるなど、自分が一番楽な位置をいろいろ試して見つけてください。
休みたくてもなかなか休めない、スポーツ選手やダンサーなどの怪我。
以前バレエダンサーの治療をしたときも、かなりひどい足首の捻挫で靱帯も切れた様子。普通ならギブス固定ですが、公演も近いし、振り付けもしなきゃならないしで、踊らないわけにはいきません。
普段は固定のためのギブスの代わりに シーネという器具を当て、包帯で止めておいて、治療の時は外せるようにしました。
治療は消炎剤のマッサージやお灸で、炎症を抑え痛みを取り、周囲の筋緊張をゆるめ、血行を改善して治癒を促進します。
テーピングも固定のためのものと、筋肉を補助するもの(足底からふくらはぎに向かって引っ張って、筋肉の代用をさせる)や、筋肉の過緊張を防ぐために、筋肉をぎゅっと押さえてあげるものなど、巻き方を工夫して対処します。
私は内心、踊るのは無茶なんじゃないかと思いましたが、彼女は結局踊りながら治しました。
さすがプロだけあって、使えないところをフォローする動きが上手なんだと思いますが、こんなことはお奨めできません。痛みがあるときは休むのが基本です。
テーピングについては、また別の記事で解説します。
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